
フレキソが拓く多彩な印刷加工
代表取締役社長(当時 取締役技術部長) 岡倉 登
欧米市場では、環境問題への対応というマクロな視点での取組みが後押しする形で、すでにフレキソ印刷市場がグラビア印刷市場を凌駕するようになってきている。しかし日本市場において、フレキソ印刷がグラビア・オフセット印刷のマーケットを全てカバーするには、品質・コスト・生産性などの面から考え、オフセット印刷の品質を要求する日本の印刷ニーズを満たすにはハード、ソフトともに改善の余地を残している。
現在の社会環境の中で、環境問題の占める割合が高くなるにつれ、無溶剤のUVインキや水性インキを使用できるフレキソ印刷は今後伸びていくと考えられる。
環境問題になるのは、揮発性溶剤系のインキである。欧米では水性インキを使用するフレキソ印刷が普及している関係で、水性インキの使用率が高く、アメリカでは65%、ヨーロッパでは36%になっている。しかし、フレキソ印刷の普及が遅れている日本においては約3%とのレポートがある。
■フレキソ印刷機開発の歩み
弊社においては、1986年にアメリカ向けにフォーム印刷機をベースにフレキソ4色を組み込んだ印刷機を開発して以来、フレキソ印刷の持つ利便性と今後の環境対策への答えとして開発を継続してきた。そして、
(1)パッケージ印刷用フレキソ印刷機(インラインタイプ)
(2)クリアーパッケージ用フレキソ印刷機(インラインタイプ)
(3)ラベル用コーティングフレキソ印刷機(インラインタイプ)
(4)ラベル用フレキソ印刷機(インラインタイプ)
(5)ラベル用フレキソ印刷機(センタータイプ)
(6)シャフトレスフレキソ印刷機(センタータイプ)
(7)コンビネーションフレキソ印刷機(インラインタイプ)
(8)シャフトレスコンビネーションフレキソ印刷機(インラインタイプ)
などの開発を行ってきた。
■フレキソ印刷のインキ供給
フレキソ印刷の特徴として、オフセット印刷や凸版印刷のインキングシステムに比べてロール本数が格段に少なくなってきている。
フレキソ印刷のインキ供給の方式について簡単に説明する。
1.2ロール方式
2ロールはドクターブレードのないタイプもあるが、通常はドクターブレードでアニロックス面の不要なインキを掻き落とすことで、正確なインキ量を版面に供給する。
理論的には、絞りロールをなくし、アニロックスロールを直接インキに浸してもよいが、高速回転になるとアニロックスのセルに十分なインキ供給ができなくなり、印刷カスレやゴーストが発生する。ドクターブレードやロックロールの交換が容易な反面、正・逆転ができなく、同じ印刷部で表・裏刷りを交互にできない。また、絞りロールはインキミストの発生源になり、印刷物を汚すことがあるので注意が必要になる。(左図1)
2.インク壷方式
オフセット・凸版印刷と同様にインク壷からインキを供給する。場所をとらずにシンプルな方式で、インキ使用量が少なくて済むため、小ロットの生産に向いている。(左図2)
3.ドクターチャンバー方式
アニロックスロールとドクターブレードでチャンバーを作り、インキを循環させて供給する。場所を取らなく、チャンバーからインキタンクまで密閉状態なので、一定濃度を保つ必要のある溶剤・水性系のインキに適している。通常ドクターブレードやアニロックスロールの交換時に、インキを抜かなければならない。この方式では、インキを循環させる循環ポンプが必要になるのでその分コストアップになる。また、色換えにはホース・ポンプ内の洗浄が必要になるので、手間がかかることになる。(左図3)
以上のようにフレキソ印刷は、基本的に版胴とアニロックスで構成されるシンプルなインキング構造の印刷方式になっている。シンプルなインキングのため、オペレーターの技量差の影響が少なくなり、セットした条件での印刷品質が保証される。つまり、正しい条件で設定すれば、誰が刷っても同じ物が印刷され、したがって、リピート製品や量産品には特に生産性が上がることになる。
しかし、オペレーターのスキルに影響されないだけに正しい設定状態にするには機械的要因や印刷器材の要因が重要になってくる。特にフレキソ印刷では、印圧の設定管理が重要な要素になる。版材が弾性を持つために、画像が印圧の変化に敏感に反応する。
フレキソ印刷の印圧はキスタッチといわれ、印圧設定を10ミクロンの単位で管理しなければならない。そのため機械製度は当然として、周辺機材の精度も要求される。
印刷品質は、印圧のほかにアニロックスロールの線数と容積、版材の材質・厚さと硬度、クッションテープの材質・厚さと硬度、被写体の厚さと表面状態、インキの性質と粘土の条件で決まることになる。
フレキソ印刷機のタイプとしては、大きく分けて3種類のタイプがある。簡単に各タイプの特徴を説明する。
■フレキソ印刷機のタイプ
1.インラインタイプ
全ユニットが床に据え置かれている印刷機。メリットとしては、印刷間のスペースが広く、見当や色合わせが容易に目視できる。また、印刷ユニットが自由に配置できるので、オフセット・凸版印刷などの他の印刷方法とのコンビネーション印刷が可能となる。
オフセット・凸版にフレキソ印刷を組み合わせ、フレキソで二スのコーティングを行うことは、シール印刷では早くから行われている。裏印刷も比較的簡単にターンバーや正・逆転切換えで行うことができる。
デメリットとしては、機械長が長く、紙パスも長いために損紙が多くなる。しかし、最近ではサーボモーターを利用し、セクショナルドライブ化することにより初期の機械設定を自動化し、損紙を減少させている。(左図4)
2.センタードラムタイプ
印刷ユニットを、センタードラムの周りにサテライト上に配置した印刷機で、別名サテライトタイプとも呼ばれている。
メリットとしては、センターの圧胴ドラムに巻付いた紙に印刷を行うので、紙の変動がないので見当精度が格段に良くなり、紙パスも短くなるので損紙も少なくなる。
デメリットとしては、印刷間が狭いために見当・色合いの目視による確認が難しくなる。また、機械高が高くなるので機械の作業性は悪くなる。(左図5)
3.スタックタイプ
印刷ユニットが上下に配置された印刷機。
メリットとしては、機械長が短くなり、紙パスも短くなるので見当合わせが楽になる。また、紙パスが短くなるので、損紙も少なくなる。
デメリットとしては、印刷間が狭いために見当・色合いの目視による確認が難しくなる。また、機械高が高くなるので機械の作業性は悪くなる。(左図6)
■フレキソ印刷の今後の展望
欧米のフレキソ市場は、年率4〜8%の幅で成長している。この成長の中心はホールディングカートン、つまり折り箱であり、オフセット印刷からフレキソ印刷に移行してきており、軟包装分野では、食品パッケージ関係がグラビアからフレキソに移行してきている。
第1の理由としては、フレキソ印刷の品質が上がったということだ。従来はフレキソによる階調幅が狭かったが、これがかなり幅広く階調再現されるようになってきた。具体的には、150線の印刷線数で2〜98%位までの階調再現が可能になった。第2の理由としては、環境の問題があげられる。特にドイツをはじめとしたヨーロッパでは、廃棄に対しての問題意識が強くあり、製造環境の問題も含めて、環境に優しいフレキソ印刷を後押ししている。フレキソ印刷は、印刷工程もできた製品も環境に優しい点が注目されていることになる。
第3の理由として生産性と利便性という点である。フレキソ印刷機の構造は、インラインプロセスが可能でワンラインで印刷のさまざまな加工を行うことで、加工と印刷間での無駄がほとんど出ない。オフセットやグラビアの場合、加工と印刷間で工程が違うために工程が増えてしまうことになる。
また、工程が増えることによって、工程間で損紙や手間がかかりコストアップになってしまう。最近の傾向である多品種・小ロットの製品にはフレキソ印刷が適しているといえる。
第4の理由としては、ソフト面の進歩である。フレキソ印刷においても、CTPの導入が行われ、ワークフローにも対応するなど開発が著しく進んでいる。また、版、インキ、アニロックスなどの印刷機材も年々進歩し、品質は向上されている。
今後、ますますフレキソ印刷の品質が改善されていくに従って、フレキソ印刷へのシフトは進んでいくと考えられる。
弊社も時代のニーズに合わせ、今後も新しい機械を開発していこうと考えている。
(印刷界2006年7月号寄稿)